サカナクションの音楽はなぜ広がり続けるのか。キャリアの中で何度も再発見される魅力

2026.6.19 12:00

先日発表された国内最大規模の国際音楽賞『MUSIC AWARDS JAPAN(ミュージック・アワーズ・ジャパン)2026』において、楽曲「怪獣」が「最優秀楽曲賞」に輝き、その他の部門の受賞も合わせて計8冠を達成したサカナクション

2007年に現メンバーでメジャーデビューを果たし、来年にはデビュー20周年を控えるサカナクションの音楽はいま、大ヒット曲「怪獣」を起点として、さまざまな方向に広がりを見せている。今回の『MAJ』での複数部門受賞は、バンドの現在進行形の勢いをまさに象徴していると言えるだろう。

本記事では、サカナクションが幅広い世代に支持を拡大する背景に注目。評価の高いライブでのパフォーマンスやフロントマン・山口一郎の発信など、いくつかの角度からバンドを掘り下げながら、その現在地を見つめてみたい。

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【高い評価を獲得してきた圧巻のライブパフォーマンス】

サカナクションは、ギターボーカルの山口が生み出す文学性の高い歌詞と郷愁感あふれるフォーキーなメロディを軸に、ロック、エレクトロ、ダンス、クラブミュージックを横断する独自のスタイルを持つバンドだ。唯一無二のサウンドやメンバーの高い演奏技術もさることながら、特にリスナーから高い評価を得ているのはそのライブパフォーマンスだろう。音響、ライティング、映像の細部までこだわり抜き、観客に圧倒的な没入感をもたらすパフォーマンスは、視覚と聴覚を刺激する“総合芸術”として支持されてきた。

昨年開催された全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”』では、これまでも数多くのサカナクションのMVやライブ演出を手掛けてきた映像ディレクター・田中裕介がライブの総合演出を担当。メンバーの衣装、床、背面に至るまで全てを白で統一した上で、ステージ頭上にはメンバーが立つ床と同比率の巨大なLEDモニターを設置し、一人の男が主人公となる“怪獣”をテーマにした映像を映し出すという斬新なアプローチに挑んだ。同ライブツアーは、『MAJ』においても「最優秀ライブ照明スタッフ賞」「最優秀ライブ音響スタッフ賞」を受賞。常に進化を止めず、“最高”を更新し続けていくという気概が制作チーム全体にあったからこそ、このような栄誉に繋がったのだろう。

【復活を告げた「怪獣」と「夜の踊り子」のバイラルヒット】

日本の音楽シーンの最前線を走り続けてきたサカナクションだが、2022年7月から2年間にわたって活動を休止している。ボーカルの山口がうつ病を患ったためだ。この期間も、山口はうつ病を抱えながらどう音楽を続けていくか、苦しみの中で模索を続けていたという。そうした日々の中で生まれたのが、アニメ『チ。 ―地球の運動について―』のオープニング曲・主題歌となった「怪獣」だ。「怪獣」はサカナクションにとって初のアニメ主題歌だった。

近年の日本の音楽を語る上で、アニメの影響力は非常に強い。主題歌やオープニング・エンディングテーマとして起用された楽曲は、アニメの放送を通じて多くの人々に届き、SNSやYouTubeで拡散され、さらなる大きなうねりを生む。「怪獣」もその流れに乗った楽曲の一つだ。地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語である『チ。 ―地球の運動について―』と密接にリンクした歌詞、ミュージックビデオ、そしてライブ。アニメ主題歌というキャリア初の挑戦で生まれた「怪獣」は、サカナクションの復活を告げる狼煙となった。

加えて、2026年春には「怪獣」と違った方向からのヒットも生まれた。サカナクションが2012年にリリースした楽曲「夜の踊り子」を、インドネシアの伝統的なボートレース「パチュ・ジャルール」で船首に立って踊る少年の映像に合わせた動画が韓国発でミーム化し、再注目されたのである。このミームがもたらした勢いは凄まじく、先日には「夜の踊り子」がリリースから14年の時を経てストリーミング累計再生回数1億回の大台を突破。ファンの間で長く親しまれてきた名曲に、新たな光が当たった。

【山口一郎のラジオ・YouTubeでの発信が生んだもの】

「夜の踊り子」はミームとして爆発的に拡散されたことがリバイバルヒットに繋がったが、近年ではフロントマンである山口の各所での発信も話題になっている。山口は今年4月より、ニッポン放送『オールナイトニッポン』の火曜日の新パーソナリティに就任。深夜ラジオの代名詞である同番組を毎週軽快なトークで盛り上げており、番組のハッシュタグがたびたびXでトレンド入りを果たすなど、リスナーからも好評だ。

さらに、山口は個人のYouTubeチャンネルを持ち、そこで頻繁にライブ配信を実施。歌唱配信のみならず、楽曲制作や音楽談義、雑談・ゲーム配信など、内容は多岐に渡るが、中でも特徴的なのは配信を視聴するリスナーとの対談や、寄せられる悩みに答える人生相談を行っていることではないだろうか。山口が配信を始めた理由は、うつ病で人との関わりが減り、YouTubeを通じて“心のリハビリ”をしようと考えたことがきっかけだという。リスナーとの会話やコミュニケーションは山口が音楽を作る意欲にも繋がったそうだが、リスナーにとっても、山口がどんな人間で、何を考え、何を感じるのかを知る貴重なツールになったはずだ。

ラジオやYouTubeという発信場所を通し、山口個人に興味を持ち、サカナクションの音楽を聴くようになったというファンも少なくないだろう。加えて、サカナクションに関するトピックやニュースに山口がタイムリーに反応することで、人々の関心の幅はさらに広がっていく。山口の発信を軸に音楽にアクセスする入り口が増えたことが、サカナクションの近年の飛躍を支えているのかもしれない。

【キャリアの中で何度も再発見される魅力】

サカナクションはこれまでの活動の中で、何度も新しい入り口を作ってきたバンドだ。キャリア初期には「アイデンティティ」「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」などの楽曲を通じて、革新的な邦ロック×ダンスミュージックの可能性を打ち出した。2013年には「ミュージック」で「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たし、知名度をさらに拡大。2015年にリリースした「新宝島」は遊び心あふれるMVも話題になったほか、曲に合わせてダンスする“踊ってみた”動画が日本のみならず海外でも流行した。時代ごとに異なる接点でファンを獲得してきたことは、サカナクションの大きな強みだと言える。

サカナクションは今年9月から3都市10公演のアリーナツアー『SAKANAQUARIUM 2026 “透明”』を開催予定。山口は「今回のツアーは音にかなり全振りします」としており、特に音響にこだわったライブとなることが予想される。多彩な魅力を持ち、何度も再発見されてきたサカナクションが届ける音楽は、これから先も多くの人の心を捉えていくだろう。

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