W杯テーマソングはなぜ記憶に残るのか 椎名林檎、King Gnu、米津玄師らの楽曲から見る“代表戦とJ-POP”

2026.6.17 11:45

6月11日より、「FIFAワールドカップ2026」が開幕した。今年はカナダ、メキシコ、アメリカ合衆国の3か国による共同開催。出場国も過去最多の48チームへと拡大され、史上最大規模のワールドカップとして、世界中から大きな注目を集めている。

【関連】サッカー日本代表グッズが普段使いに広がる理由 「おさるのジョージ」コラボから見るW杯前の応援文化

各国代表の戦いぶりや日本代表の行方に期待が高まる一方で、ワールドカップを語るうえで欠かせないのが、テレビ中継を彩ってきた音楽の存在だ。試合前の煽り映像、ハーフタイムのダイジェスト、試合後のハイライト、そして大会を振り返る特集番組。そこには、その年ごとのテーマソングが繰り返し流れ、いつしか試合の記憶と深く結びついてきた。

そこで本記事では、これまでNHKのサッカー中継を彩ってきたテーマソングに着目。ORANGE RANGE(オレンジレンジ)「チャンピオーネ」、Superfly(スーパーフライ)「タマシイレボリューション」、椎名林檎「NIPPON」、Suchmos(サチモス)「VOLT-AGE」、King Gnu(キングヌー)「Stardom」、そして2026年NHKサッカーテーマとなる米津玄師「烏」にフォーカスし、なぜワールドカップのテーマソングはこれほど記憶に残るのか、日本代表の歩みとJ-POPの関係から考えてみたい。

【ORANGE RANGE「チャンピオーネ」】

まず多くの人にとって強く印象に残っているのが、2006年のORANGE RANGE「チャンピオーネ」だろう。同曲は、NHKサッカードイツ大会放送テーマソングとして使用された楽曲。ORANGE RANGEらしい勢いのあるサウンドと、思わず口ずさみたくなるキャッチーなフレーズは、ワールドカップという大きな祭典の高揚感とよく重なっていた。

当時の日本代表は、ジーコ監督のもとでドイツ大会に臨み、中田英寿、中村俊輔、宮本恒靖、川口能活らを擁して大きな期待を集めていた。結果としてグループステージ敗退に終わったものの、大会前から日本中に広がっていた熱気は非常に大きかった。その空気を象徴するように鳴っていたのが「チャンピオーネ」だった。試合の結果だけではなく、テレビの前で応援していた時間や、街全体が代表戦に向いていた感覚まで思い出させる楽曲と言える。

【Superfly「タマシイレボリューション」】

続く2010年の南アフリカ大会で強烈な印象を残したのが、Superfly「タマシイレボリューション」だ。力強いイントロと、越智志帆の突き抜けるようなボーカルは、日本代表がピッチに向かう緊張感や、勝負に挑む選手たちの気迫をそのまま音にしたような迫力があった。

南アフリカ大会の日本代表は、開幕前の不安を覆し、カメルーン、オランダ、デンマークと同居したグループを突破。岡田ジャパンの粘り強い戦いぶりは、多くのサッカーファンの記憶に残っている。「タマシイレボリューション」は、その快進撃とともに何度も中継やハイライトで流れたことで、単なるテーマソングを超え、あの大会の日本代表を象徴する一曲になった。曲を聴くだけで、本田圭佑のゴールや、決勝トーナメントでの悔しさまで蘇る人も少なくないはずだ。

【椎名林檎「NIPPON」】

2014年のブラジル大会では、椎名林檎「NIPPON」がNHKサッカー放送のテーマ音楽として使用された。椎名林檎ならではの言葉選びと、祝祭感のあるサウンドは、サッカー日本代表を取り巻く熱狂を強く打ち出した楽曲だった。

ブラジル大会の日本代表は、ザッケローニ監督のもとで攻撃的なサッカーを掲げ、大きな期待を背負って本大会に臨んだ。香川真司、本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司ら、欧州で活躍する選手も多く、開幕前の期待値は非常に高かった。その一方で、本大会では思うような結果を残せず、悔しさの残る大会にもなった。「NIPPON」は、そうした期待の大きさや、国を背負って戦うことの重みまで含めて、2014年の空気を思い出させる楽曲と言えるだろう。

【Suchmos「VOLT-AGE」】

2018年のロシア大会で使用されたSuchmos「VOLT-AGE」は、それまでのサッカーテーマソングとは少し異なる印象を残した。大きく鼓舞するような応援歌ではなく、クールなグルーヴと余白のあるサウンドで、サッカー中継に新しい質感を持ち込んだ楽曲だった。

当時はその作風に対してさまざまな反応もあったが、今振り返ると「VOLT-AGE」は2018年の日本代表が持っていた独特の雰囲気とも重なって見える。ロシア大会の日本代表は、大会直前に監督交代がありながらも、西野朗監督のもとで決勝トーナメントに進出。ベルギー戦では世界を相手にあと一歩のところまで迫った。華やかな勝利だけではなく、現実的な戦い方、悔しさ、そして次につながる手応えが残った大会だった。そうした複雑な余韻と、Suchmosの抑制の効いたサウンドは、時間が経つほどに結びついていく感覚があった。

【King Gnu「Stardom」】

2022年のカタール大会では、King Gnu「Stardom」がNHKサッカーテーマとして使用された。この大会で日本代表は、ドイツ、スペインという強豪国に逆転勝利し、グループステージを首位で突破。世界を驚かせる戦いを見せた。

「Stardom」は、そうした日本代表の躍進とよく重なっていた楽曲だ。華やかなサウンドの中に、どこか張り詰めた緊張感もあり、ただ明るく背中を押す応援歌とは少し違う。大きな舞台に立つ高揚感と、世界と戦う厳しさ。その両方を感じさせる曲だったからこそ、ドイツ戦、スペイン戦の歓喜や、クロアチア戦であと一歩届かなかった悔しさとも結びついていった。

ワールドカップのテーマソングが記憶に残るのは、その曲が何度もテレビ中継で流れるからだけではない。勝った試合のハイライト、敗れた直後の選手たちの表情、大会を振り返る映像。そうした場面と一緒に耳にすることで、楽曲そのものが、その大会の記憶の一部になっていく。だからこそ、曲を聴くだけで、当時の試合や日本代表を応援していた時間まで思い出されるのだ。

【米津玄師「烏」】

その流れを受け継ぐ2026年のNHKサッカーテーマが、米津玄師「烏」だ。同曲は、米津が「2026 NHKサッカーテーマ」として書き下ろした新曲。NHKの各サッカー番組でオンエアされるほか、「FIFAワールドカップ2026」の放送でも使用される。

米津がワールドカップイヤーのサッカーテーマを手がけることには、時代性も感じられる。これまで米津は、アニメ、ドラマ、映画、ゲームなど、さまざまなカルチャーの場面で、その作品や企画の印象を決定づける楽曲を生み出してきた。単に大きなタイアップを担うアーティストというだけではなく、作品や出来事の記憶に残る“音”を作ってきた存在でもある。その米津が、2026年の日本代表の戦いにどんな音楽を重ねるのか。それは、今大会の大きな見どころのひとつだろう。

【サッカー中継を彩る音楽の存在感】

また、2026年の日本代表をめぐる音楽としては、サッカー日本代表「最高の景色を2026」公式テーマソングであるJI BLUE「景色」も発表されている。“みせてくれ、その景色。”というキャッチコピーを掲げたこの楽曲は、ワールドカップに挑むSAMURAI BLUEの背中を押す応援ソングとして位置づけられている。テレビ中継で繰り返し流れるNHKサッカーテーマと、日本代表を直接的に後押しする公式テーマソング。その両方が存在することも、2026年大会におけるサッカーと音楽の関係を考えるうえで興味深いポイントだ。

このように振り返ると、ワールドカップのテーマソングが記憶に残る理由は、楽曲そのものの力だけではないことがわかる。大切なのは、その曲がどの大会の、どの代表チームの、どの試合映像と一緒に流れていたかということだ。勝利の瞬間に流れた曲は歓喜と結びつき、敗戦後に流れた曲は悔しさを思い出させる。ORANGE RANGE、Superfly、椎名林檎Suchmosらの楽曲が示してきたように、テーマソングは日本代表の戦いをより鮮明に記憶へ刻む役割を担ってきた。2026年のワールドカップでも、きっと新たな名場面とともに、ひとつの楽曲が多くの人の記憶に残っていくはずだ。

web:172.30.1.100