あなたの気持ちにマッチする作品はきっとある。心が疲れたあなたに寄り添う名作たち
ストレスの多い現代社会。厚生労働省の発表でも精神疾患で医療機関にかかっている患者数は近年増加傾向にある。特に2020年入ってからは新型コロナウイルスの影響で、世の中が不安定な状況が続き、メンタル面で不調を覚えた人も多かったのではないだろうか。
程度の差はあれ、気持ちがしずむ、楽しいことがない、気持ちが落ち着かない、些細なことでも怒りっぽくなるなど、精神が不安定になる状態は多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。そんな世相を反映してか、ネットなどでは“メンヘラ”、“ヤンデレ”といったスラングも生まれている。心の病は決して特別な人だけが患うものではない、という事実はようやく浸透してきているところだろう。
では、こういった状態からどうすれば立ち直れるのか。もちろん、不調が続く場合や、症状が重い場合には医療機関での受診が適切だが、まだ程度の軽い状態であれば、体を動かしたり、誰かに話を聞いてもらうなどして気分を変えるのが有効だとも言われている。
だが、ネガティブな気持ちになっている時に、自分から行動を起こすのはなかなかハードルが高いのではないだろうか。そんな時、一つの選択肢として、同じような体験を題材にした古今東西の作品に触れてみるのはどうだろう。世の中には自分と似たような人がいると思えるだけで抱えた荷物がひとつ軽くなるかもしれない。
ここでは、そんな作品たちを紹介する。
私小説形式のフィクションでありながら、作者自身の人生を色濃く反映したと思われる部分が多いとされる太宰治の小説『人間失格』は、日本近代文学を代表する作品の一つ。「恥の多い生涯を送って来ました」と語る主人公の孤独は約70年前の小説ながら今でも多くの読者の心をつかむ名作である。
痛みでしか生きていることを感じられない少女の等身大の姿を描いた金原ひとみの『蛇にピアス』は2008年に吉高由里子主演で映画化もされた。毒々しいイメージが先行するが、根底に流れるのは一人の少女の純粋な物語と言えるだろう。
エッセイでもTwitter発信で多くの若者の共感を呼んだニャンの『好きな人を忘れる方法があるなら教えてくれよ』や南海キャンディーズの山里亮太が妬み嫉み恨みつらみに塗り固められ心情を吐露し、それをどうやってガソリンに変えてきたのかが描かれた『天才はあきらめた』などがあり、一字一句に込められた作者の魂に触れることができる。
漫画では南Q太の初期作品を集めた短編集『日曜日なんか大嫌い』や冬虫カイコの作品集『君のくれるまずい飴』など、短めの物語を集めた一冊が読みやすいかもしれない。
それぞれに最愛の人を失って心のバランスを崩した男女の出会いと再生を描いた『世界にひとつのプレイブック』(2012年)。メインキャストのジェニファー・ローレンスが見せたエキセントリックな演技はぶっ飛んでいながらも切なく涙を誘う。
進学と恋と友情に悩む17歳の少女の高校最後の1年を瑞々しいタッチで描いた『レディ・バード』(2017年)も胸に突き刺さる。シアーシャ・ローナン演じる主人公の痛々しくも切ない姿に自らの思い出を重ねる人も多いだろう。
音楽のジャンルにも心の闇をさらけ出した楽曲は多い。今やシーンのトップを走るあいみょんがインディーズ時代にリリースした「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」は好きな異性に振り向いてもらえない心情を狂気的に生々しく表現している。
恋愛の陰を描いた歌詞と圧倒的なライブパフォーマンスで人気の高い4人組ロックバンド、ミオヤマザキの代表曲と言えば「メンヘラ」。自らもメンヘラだと語るボーカルのmioが歌う物語は“わかりみが深い”。
そして、最後に紹介するのは、視聴者から寄せられた実話をベースにした楽曲とMVで、聴く人の闇と病みを解放しようと試みるのは総合プロデューサー、音楽制作、MV制作の3名が名前や経歴などを一切公表せずに展開されているプロジェクト・karte:少女臨床試験。ボーカルも楽曲ごとに変更され、その名前も明かされないというこのプロジェクトでは、実体験をもとに楽曲が制作されており、その内容は生々しくも疲れた心にそっと寄り添ってくれる。年明けに発表された第1弾楽曲の「病床記録 case1 群青リバーシブル」では口だけの男に振り回され傷つき、さらに自分で自分を傷つける事が大好きな少女の実話がテーマだ。
紹介しだせばきりがないほど、世の中に“心の闇”の部分を表現した作品は多い。ストレスフルな現代で、心が疲れている時があるのは決して珍しいことではない。多くの作品に触れることで「心に闇を抱えているのは自分だけじゃない」と思えれば少しは気持ちが軽くなることもあるのではないだろうか。