亀田誠治プロデュース、完全無料の公園音楽フェス「日比谷音楽祭」は“天命”

2019.5.30 16:26
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亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK

6月1・2日、音楽プロデューサー・亀田誠治さんが実行委員長としてプロデュースを務める、完全無料の音楽フェス「日比谷音楽祭」が開催されます。

“野音”こと日比谷野外音楽堂をはじめとする複数の音楽ステージを日比谷公園内に設置し、“公園で、音楽を無料で終日楽しむ”スタイルを実現する、この「日比谷音楽祭」。石川さゆり、布袋寅泰、JUJU、SKY-HI、新妻聖子に山本彩……と幅広い出演者も見どころのひとつです。

このフェスは果たしてどのように実現に至ったのでしょうか?全てをイチからやらなければならなかった、と笑う亀田誠治さんは、“ジャンルと世代を超える”音楽の力について語ってくれました。

亀田誠治の“天命”、フリーフェス、日比谷音楽祭

2年半くらい前に、日比谷公園の方から連絡があったんです。日比谷公園全体を使った音楽フェスをやりたい、そのプロデュースをしてもらえませんか?と。実は僕は、ずっと、ニューヨークのセントラルパークのフリーフェス/サマーステージのことを考えていました。フリーフェス/サマーステージは、ニューヨークという大都市の、緑のたくさんある大きな公園で開かれる規模の大きい音楽フェスです。大切なことは、無料(フリー)で、誰でも気軽に楽しめるということ。若い人はもちろん、それこそ子供からおじいちゃんもおばあちゃんまで、気軽に、音楽を楽しむために集まってくる。

ステージに出るのは、デビューしたてのミュージシャンから、エルヴィス・コステロやマライア・キャリーみたいな大御所まで多種多様。本当にジャンルレスで、音楽そのもの、といった感じの出演者たちです。もちろんレベルも高い。そしてたとえばステージが始まるまでの時間は、誰もが公園でのんびりしながら一日を過ごすことができる。音楽が本当に生活に根付いているな、と。

僕はずっと、そんな場所というか、フェスというか、そういう音楽文化が日本にもあったらいいな、日本に根付いてくれるといいなと思っていたんですね。

そんな中で、日比谷公園からそんなオファーをいただいた。野音(日比谷野外音楽堂)は、われわれミュージシャンにとっては日本武道館と並ぶ音楽の聖地ともいうべき場所です。これはもう、全てが腑に落ちるというか、「これは天命だ」と。

亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK
亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK

音楽から受け取ったもの

この日比谷音楽祭を僕が天命ということには、明確な理由があります。

僕は、素晴らしいミュージシャンの方々と一緒に、25年間、プロデューサーとしてやってきました。その中で、上の世代から受け継いだ音楽の力の大きさを知って、さらにそれを若い世代に繋げていくことの責任を感じるようになってきたんですね。

僕自身も、母親が持っていたレコードを聴いて育ちました。姉のバレエの発表会に連れて行かれたり、当時流行していたポール・モーリアのコンサートや、美川憲一さんのディナーショーに連れていってもらったり、本当に、音楽そのものの良さをジャンルレスに受け取って育ちました。今は、音楽を聴くということだけでいえば、いい時代です。たとえばYouTubeで、なんでも、どんな音楽でも「掘る」ことができる。その音楽が好きな人は、その好きな音楽を好きなだけ聴くこともできます。

でも、素晴らしいミュージシャンが奏でるジャンルを超えた「生」演奏の魅力や空気を震わせて響くリアルな肌感覚としての音楽についてはどうでしょう。僕は、それをみんなに伝えたいと思っています。そしてそれは、僕が子どもの頃に体験させてもらったものでもあります。ジャンルの垣根なく、音楽そのものの魅力を、世代を超えてボーダーレスに伝えていきたいんですよ。世代の縦軸と、ジャンルの横軸をなだらかにつないでいくことがボーダーレスということなのでは。

全てを「イチから」手作り

でも、実際に実現しようと思うと、なかなか大変なもので。フェスをやろうとすると、当然、お金がかかります。さて、そのお金をどうするか。通常のやり方は、チケット代をいただく形ですよね。その上で広告代理店が各企業の協賛を得て成り立っている。

日比谷音楽祭では、僕は絶対に無料にこだわりたかったので、そうなるとお客さんからチケット代を取る前者はダメ。後者が通常の手段だと思います。でも、僕は、そこを人に任せるのは嫌だった。きちんと、僕自身が僕自身の言葉で説明したかった。だから各企業の方々を訪問して、ご協賛をお願いしに行ったんです。だって、単純に言って、お金をくださいというお願いですからね(笑)。ちゃんと、自分で、自らの「熱」をお伝えするのがまっとうだろう、と。

そのために、スーツ2着、ワイシャツ4枚、ネクタイ6本を買いました。就職活動もしたことがないので、初めてちゃんとした社会人になった気分です(笑)。会社訪問の後でスタジオに行くと、「おっ、亀ちゃん今日は結婚式?」とか言われたりしながら。

でも、本当に、思いを伝えることから、全てが始まることを実感しました。情熱や、ひとりの想いが、誰かと話すことによって、何倍にも拡がっていくことのありがたさです。そのためには自分が動かないといけないんだな、と。大変だけど、自分の言葉で伝えないといけない。

結果的には、名だたる企業の方々が僕の話を聞いてくださって、2年越しで今回のフェス実現にこぎつけた感じです。本当に感謝ですね。感謝しても感謝しきれない。

亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK
亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK

“永世中立国プロデューサー”亀田誠治

各企業を廻って、いろいろとお話を伺ってみると、僕の音楽を聴いて育ちましたと仰る方々がいらしたことが嬉しかったですね。そして賛同してくださった方が、別の方々を新たにご紹介してくださるという新しい出会いが生まれた。拡がった賛同の輪は、本当に大きなものになりました。

僕はインディペンデントなプロデューサーとして、これまで、どんなアーティストやミュージシャンとも、どんなレコードメーカーや音楽プロダクションとも「そこに良い音楽があるならば」という思いで、平和にやってきたんです。自分で自分を音楽業界のスイス、永世中立国と言っていたんだけど(笑)。そういうことが活きたな、と思う場面もありました。これまでまじめに音楽を作ってきてよかったな、と。音楽制作はもちろんだけど、テレビもラジオも、その他全ての仕事がひとつに繋がってくれたな、と。

これもやっぱり音楽の力なんですよ。僕の好きな言葉で「なだらかに繋がる」というものがあるんだけど、本当にそのことを実感した気持ちです。音楽は、繋がる力でもある。

だから、この日比谷音楽祭では、次世代のための音楽教育~多くの子どもに音楽の力を繋げていく~ことをテーマにしています。きちんと次世代に音楽の力を伝えていかないといけない。さまざまな音楽教育のコンテンツを組入れたり、クラウドファンディングにご参加いただくと見知らぬお子さんにも気軽に席をプレゼントできるような試みを導入したりしています。

キーワードは「多幸感」。新たな時代のフリーフェス

フェスの内容についても、本当に「イチから」、全てを自分で考えました。そこも丁寧にやりたかった。

すべての出演アーティストを僕が選びましたし、ステージの内容も、ジャンルレスに、エイジレスに音楽の魅力が伝わるものをと、アーティストひとりひとりと話し合って決めていきました。どのアーティストのどのステージも、本当にこのフェスでしか見られないものになります。そこは音楽プロデューサー、亀田誠治として責任を持つという覚悟で。

そして公園自体の使い方も、日比谷公園であることが活きるようにしたいんです。緑が豊かな公園だし、誰もが知っている噴水があったりもする。だから公園のあるがままの景観を大切にしながら、ステージの配置を決めていったりと、いろいろ工夫しています。日比谷公園が記憶に残るように、このフェスがこの公園で開かれることの意義があるように。それも踏まえて、たとえばフードも、通常のフェスとはちょっと違った、ピクニック気分で楽しめるフードを厳選しました。一日、公園で楽しく過ごすためには食事も大切な要素ですからね。

キーワードは、「多幸感」です。とにかく全ての要素を、都心の日比谷公園で音楽を一日幸せに楽しむということのためにチューニングしていきたい。

それはスタッフにとっては大変な仕事だと思います。今までにない普通と違うことばかりお願いしているから(笑)。でも、やっぱり、日本で最初の大きなフリーパークフェスとしては、きちんと自分で細部まで徹底してこだわらないとダメだという気持ちがある。

亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK
亀田誠治さん/(c)E-TALENTBANK

音楽は未来を予見する - 「なだらかに繋がる」ために

今回、DREAMS COME TRUEがフェスに協賛してくれたんです。出演してほしかったんだけど、タイミングが合わなくて。だけど、ニューヨークのサマーステージを知っている中村正人さんは日比谷音楽祭の趣旨にシンプルに賛同してくれた。フェスにミュージシャンが協賛するというのは本当に前代未聞かもしれません。

今後は、音楽業界の産業構造もきっと変わっていくだろうと思っています。音楽業界の中だけでお金を回すのではなく、さまざまな業界が入り交じっていくのではないかというような確信があります。その意味でも今回の日比谷音楽祭が、新たなご協賛×音楽ビジネスのモデルになってほしいという想いもあります。次世代の音楽家のあり方や業界のあり方についても、ひとつのヒント、ベンチマークを提案できるようにしたい。既存のマーケティングの枠を超えて、風通しを良くしていきたいですね。

壊すのではなく、繋げる。重ねる。音楽の素晴らしさを伝えながら、なだらかに繋がっていくことができれば嬉しい。いつだって時代の「次」を考えている人が、未来・夢をつくっていくんです。一人勝ちじゃなくて、みんなでなだらかに繋がって、心地よく生活ができる世の中。真心、思いやり、信じ合える場が拡がることが僕の願いです。

text:熊谷朋哉(SLOGAN)

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