世界標準よりも「黒革の手帖」、prediaに見る和のソウル
世界の音楽シーンを見渡してみると、エンターテインメント業界が活発な国は大抵“世界標準”であるアメリカのポップスの影響を受けている。2017年8月現在でいえば、ヒップホップ、トラップ、レゲエ、EDMをミックスしたR&Bサウンドが主流だ。翻って日本に目を移すと、サウンドよりも歌と歌詞に重きが置かれた楽曲に人気が集まる。これは良し悪しの問題ではなく、エンターテインメント業界の仕組みによるところが大きい。
prediaはアイドルシーンでは熟女枠の部類に入る他のアイドルと比較するとかなり年齢を重ねている平均年齢27歳の10人組ユニットだ。彼女たちの音楽的特徴はボーカル力。とくにメインボーカルである、湊あかね、村上瑠美奈の声は非常に強い。彼女たちの色がよく出た曲を1つ挙げるとすれば、2016年1月に発表したシングル曲「刹那の夜の中で」だ。彼女たちのコンセプトに合致したエロい歌詞をスピード感あるEDMサウンドで歌うこの歌謡曲では、20代後半の女性ならではの達観と、ぎりぎり残った瑞々しさが湊のボーカルを中心に表現されている。
prediaの強みは、20代後半の女性の持つ特有の危うさを表現できることだ。この年代は、ちやほや期が終わって人生とリアルに向き合うことを余儀なくされると同時に、未来への夢も強く持てる時期。希望と絶望がないまぜになった女性像は、10代では表現できないし、30代では重すぎる。その微妙な機微を、グループとしてボーカル力で歌いわけることができるのだ。
6月に発売された最新曲「ヌーベルキュイジーヌ」は80年代後半〜90年代前半のバブル期を彷彿させるミッドテンポの歌謡曲だった。この曲を聴いて、prediaは松本清張原作「黒革の手帖」の主人公・原口元子の所作を参考にすると面白いと感じた。手が届きそうで全然近づいてこない女。本当は夢枠なのに、そうじゃないと勘違いさせる女。原口のように腹の底に野望を抱くが人前ではおくびにも出さない。
世界標準のR&Bサウンドではビヨンセのように強い女のイメージを纏うシンガーが多い。だがprediaの魅力はそこではなく、繊細を感じさせつつも折れないというしなやかさにある。その表現には刹那的な最新R&Bサウンドより、面影ラッキーホールなどに代表される和のソウルが適している。歌詞と楽曲をとぎすませば、日本の芸能界をトリコにできるかもしれない。今後の進化に注目してもらいたい。
10月21日 7thシングル「Ms.Frontier」 リリース