コロナ禍でのライブハウス運営への想いとは〜下北沢「CLUB Que」二位徳裕さんに聞く〜
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ライブハウスやクラブはその多くが長期間営業自粛に追い込まれました。現在、営業自粛は解かれ、段階的にイベントやライブの開催なども規制が緩和されてきているとはいえ、まだ以前とは程遠い厳しい状況に置かれているのが現実です。
今回は、そんなライブハウスにおける現状やこれからの展望・思いを、1994年から下北沢で営業を続ける老舗のライブハウス・CLUB Queでマネージメントを担当されている、二位徳裕(にい なるひろ)さんに伺いました。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、どのような動きをされていたのか、また資金面、ライブハウス業界全体の現状や、思いについてお話を聞かせて下さいました。
※本インタビューは6月上旬に実施しました。
ー まず新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、今現在に至るまでのお話をお伺いできますか?
二位さん(以下:二位)「2月はまだちゃんと分かっていなかったですね。いつも通りの2月だったと思います。ただ頭の片隅で気にはかけてはいました。出演バンドもまだ特に影響を感じていませんでした。それで3月になった頃くらいからチラホラ『やばいぞ』という感じがしてきて、知り合いのミュージシャンが、3月中旬に別のライブハウスでライブをした時に新型コロナウイルスの感染が問題になったり、イベントのキャンセルも出始めました。
でも、まだやれるだろう、赤字になってもやるぞという気持ちがその時点では強くて、3月でキャンセルになったイベントを4月でリスケしたり、ライブイベントを“一日店長イベント”とか特殊なイベントに変えたりと試行錯誤をしていましたが、だんだんとお客さんが入らなくなってきました。
それでいろんな方の意見も聞いた上で、4月5日くらいに完全に休もうということになりました。3月末から4月頭は微速前進という感じでしたね。そして休んだ中でどうするか考えました。社員については解雇したり、給料をカットして自宅待機という形にはしたくなかったのでそのまま継続して給料を払い、みんなで掃除をしたり、今まで眠らせていたYouTubeを始めました。」
ー 動画は過去のライブ素材をアップしたんですか?
二位「いや、過去のライブ動画には基本頼らず、今の状況下でも出来る事を楽しく、お客さんというよりは、バンドに向かって『やればできるよ』という活力になればと思い、特にお金にはならなくても、音楽のチャンネルと、トークやインタビュー、めちゃくちゃふざけるバラエティのチャンネルと、3つの主軸で番組を作ることにしました。運が良かったのは、去年の暮れに入ってきたスタッフが、動画編集に詳しかったことですね。大活躍しているんです。ありがたいです。」
ー 番組を作る感覚って、イベントを作る感覚に似ているのでしょうか?
二位「そうですね!でも僕がコロナ騒ぎになる前に突然YouTubeでハマったチャンネルがあったんです。それまではYouTuberは過激な印象があって拒否していたのですが、ちゃんと編集力や技術力やトーク力があるYouTuberの方が評価され始めているような印象があって、これってちょうど僕が東京に出てきた85年位のロックシーンに似てるなって思ったんです。」
ー 面白い! YouTuberがですか?
二位「はい。70年代ももちろんロックシーンで面白い人はいたんですが、みなさん素晴らしく技術やセンスが高い方ばかりでした。それが80年くらいからパンクが始まって、当時のライブハウスは乱暴でめちゃくちゃな状況に。それ自体が持て囃されてもいたのですが、その後のパンクニューウェーブという新しいカルチャーに繋がっていったという流れがありました。これと似てる現象が今のYouTubeで起きていると思ったんです。」
ー めちゃくちゃ面白いですね。そんな風に考えたことがありませんでした。
二位「始めはYouTubeも、過激な企画が多かったと思うのですが(笑)、その入口があったおかげで、その志向とはちょっと違った面白い動画が投稿されるようになっていった。それに気がついたのが2月で、すぐこの騒動になり、これはもうやるしかないなと。」
ー なるほど。すごい流れですね。
二位「YouTube自体は4年前くらいから立ち上げていたのですが、なかなか続かず、半ば放置していたような感じでした。ミュージシャンに企画をお願いするのはなかなか難しいのは知っていたし、このご時世なので、やるなら全力で自分達が表に出ようと。
そして、視聴者の気持ちになれば、音楽だけを真面目にやっても広がらないなと思い、他のライブハウスがやっていないことで、他ジャンルのYouTuberがやっているような事をミクスチャーする形で番組を作ってみようと思いました。
初めは座談会みたいなものから始まり、3回目ではスイッチャーを買い、最近イチオシはドリフみたいなコントというかミュージカルというかそんな動画。脚本は映画『COLORS OF LIF』以来、僕が書いて撮りました(笑)」
ー すごい(笑)。これはチケット制にしているんですか?
二位「いえ、これは完全無料配信にしました。そしてもし気に入ってくれたら、ドネーションや物販を買ってくださいという形をとりました。」
―そうなんですね。この状況下で、資金の面で悩まれているライブハウスは多いと思います。CLUB Queさんはどのようにお考えですか?
「今回の新型コロナウイルスの騒動で、すぐに休んで何の発信もせず、ただクラウドファウンディングを集うとか、助成金を貰うだけのためにクリエイティブな事をしないで休む事はしたくない…という気持ちがありました。
ただ、その後、営業すれば出演者も従業員も危険にさらしてしまうところまで状況が悪化して、そこからは躊躇わずに休みました。その後は必然的に助成金や補助金を頼りたくなりましたが、それでも、店を開けずにもできるエンターテイメントとしてYouTubeなどには精力的に取り組んでいます。」
ー 助成金をもらった方々の話も耳に入って来るのではないでしょうか?
二位「そうですね。ただ、その影には、カルチャーを守ろうとしている人やライブハウスが叩かれたり、潰れたりする傾向があるように思います。それに対しては、ものすごい危機感がありますよ。
話を戻すと、僕たちのやっているYouTubeも、普段ロックに興味がない人にまで響かないといけないし、こうなると最早ライブハウス同士だけがライバルじゃないんです。東京ドーム級のアーティストも、バラエティ番組の人たちも、演劇の人たちも、全てがライバルであり全てが参考になる状況なので、本当に視野を広げて勉強し直さないといけないなと思っています。ほんとまだまだ全然足りませんけど」
ー 完全に新しい考え方になる必要があるフェーズですよね。
二位「はい。今までの経験を大事にしながら、新たに配信や動画編集に挑戦しながら、お客さんが少なくても営業できる形を模索していかねばならないという三足のわらじ状態です。やることが多すぎて『どれを誰がやるの?』というような。でもスタッフは増やせないので、スタッフたちのスキルを上げなくてはならない中、『これは新しいことが学べるチャンス!』と捉える人ともいれば『仕事が増えてしまった』と感じる人もいるので、あまり強要はせず『仕事なくなるぞ、1円でも稼ぎたいよね!アイディア持ってきた人は働こう』というスタンスでスタッフには呼びかけています。例えば、YouTube以外でも物販セクションのスタッフがいるのですが、家で遊べるものとして、けん玉を作ったんです。」
ー けん玉ですか!
二位「Queのオンラインショプで販売して、もう40個くらい売れたんです。オレンジはQueのカラーで、グリーンはZher the ZOO YOYOGIのカラーなんです。けん玉がとてつもなく上手なドラマーにけん玉をしてもらった動画もアップしたので是非見てください(笑)」
ー 物販のサイトにもありますが、「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19※」の企画も素晴らしかったですね。※70のバンドやミュージシャンによる、困窮するライブハウスを支援するプロジェクト(2020年6月末まで実施)。
二位「これもバンドの方が素早く動いてくれて、本当に嬉しかったです。あとはback numberが、すごい金額をドネーションしてくれたり、本当にありがたかったです。コロナ禍にあって、ライブハウスは一時期批判の的になってしまい悲惨な状態ではあるのですが、逆にすごく甘えん坊な側面もあると思って。助けてくれる人がいる…という。月の運営費には届かなくても、例え1000円でも2000円でも、金額に関わらず凄くないですか?人にお金をあげるって。
でもそれに対して、平和な時が来た時に、みなさんに自分たちは何が返せるんだろう?とすごく思います。援助や募金だけに甘えっぱなしではいけなくて、何かを絶対に返さないといけない。でもそのためには存続しないといけなくって、存続の仕方ってすごく難しいですよね。」
ー 私は過去にライブハウスに勤めていたとことがあるのですが、現在の当事者ではありません。ただ、コロナ禍のライブハウスに関する報道のされ方については、かなり傷つきました。
二位「なるほど。ライブハウス当事者でないような方が傷ついてしまったからこそ、援助金の話も出たんでしょうし、やってきた甲斐があるなあと嬉しくありがたい気持ちもあるのですが、僕自身はあまり傷つかなかったんです。そもそもそんなに認められてたんだ?って。僕としては、ちゃんと仕事や文化発信をしないとお金なんてもらっちゃだめという気持ちと同時に、真反対になるかもしれないけど、業種としては弱すぎるという意識があります。」
ー ビジネス的に弱いという意味合いでしょうか?
二位「ライブハウスはちょっと世離れした地下にあって、これまであまりとやかく言われることがなかったんです。下北沢は特にライブ人口が多いから、それなりにCLUB Queが街に貢献はしたという自負はあるけど、ライブハウス同士は自由すぎてまとまりがない。そんな事情からか、政府や行政等に対して発言力が弱い状況にあるなと感じています。」
ー 確かに組合のような仕組みはライブハウス業界になかったですね。ライブハウスに限らず、今回のコロナ禍で、様々な文化や事業の構造や枠組みにまで一気に意識が向かざるを得ない状態になったように感じます。
二位「今はまるで恐竜が絶滅した時みたいなんじゃないかなと思っています。ネズミや鳥のように生き残るにはどうしたらいいか、知恵を絞らないといけない。そして同時にこれまでの勢力図や文化の成り立ち、価値観も変わるタイミングになると思います。未曾有の時だからこそ、どれだけ勉強や我慢や行動に出られるか、という気持ちです。」
ー 個人としては大金を渡したりは出来なくても、私のような思いを持っている人は一定数いると思っています。
二位「ありがとうございます。確かに。もう異分子ではないですもんね。音楽やライブカルチャーは社会の一端は担っている。だからこそね、音楽人はもっと自分のやっていることに自信や責任を持って、さらに努力をしていかないといけないと思っています。」
ー 二位さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました!