日本の“JAY-Z”ヒップホップ・スターAK-69の音楽が「自己啓発ライブ」や「聴くエナジードリンク」と評される理由
8月7日、今年3月開催の武道館2デイズのライヴの模様を収めたDVD『THE ANTHEM in BUDOKAN』をリリースしたAK-69は、名実ともに日本でもっとも売れているHIP HOPアーティストだ。この新作DVDも、オリコンDVDデイリーチャート2位、ウィークリーチャート3位を獲得というから、そう書いて差し障りはないだろう。
AK-69の音楽の支持者はヒップホップファンに止まらない。AK-69は日本プロ野球でもっとも選手の入場曲に楽曲を使用されるアーティスト(2019年のシーズンではセリーグ1位・パリーグ3位)であり、今年6月日本人初の4階級制覇を果たしたプロボクサー井岡一翔をはじめとする名だたる世界チャンピオン達、先日総合格闘技RIZINで2冠王者堀口恭司を倒し話題をさらった朝倉海も入場曲に選び、体操の内村航平らも自身を鼓舞する曲としてAK-69の楽曲を挙げている。また、ラグビーワールドカップ東京大会の公式ソングに起用され、日本代表のトレーニング時にはAK-69楽曲のプレイリストが使用されている。その他、サッカー、バスケット、相撲、スキーなどジャンルを問わず、一線で闘うアスリート達からの支持や共鳴が後を絶たない。
AK-69の音楽はタイトルの『THE ANTHEM』に象徴されるように、勝負に生きる者たちにとって(今そこに立つことを)祝う歌であり、文字通り応援歌なのだ。AK-69のライヴが時に「自己啓発ライブ」や「聴くエナジードリンク」と評され、上記のようなアスリートだけでなく、他にも経営者のファンが多いと聞くのは頷ける話だ。
「自分が日本のヒップホップアーティストでトップにいるのはわかっている。だからといって悔しさがなくなったわけではないし、現状に満足しているわけではまったくない」
AK-69は活動の輪を飛躍的に広げながらもこうした発言を、事あるごとに繰り返してきた。それはこの10年間の常日頃のインタビューにおいてもそうだったし、今度の武道館ライヴでも変わらぬ思いを吐露していた。傍目には充分に勝ち上がっているように見えるだろうが、多少の自負が含まれているにせよ、AK-69にとってこれらの言葉は単なる謙遜ではない。というよりは、これこそがAK-69の変わらぬアティチュードというのがより正確かもしれない。
これまで様々な雑誌のカバーを、あるいはシーンの記録や前例を塗り替え、今では愛好するベントレーを気ままに乗り換えるエグゼクティブは、会うたびに何かしらの「どうすれば、いま自分が思い描くイメージを具現化できるか」という問いと向き合っているように見える。そして、その時彼が思い浮かべている青写真は、必ず「今のまま普通にやっているだけでは絶対に届かない」という遥か高みにあるものだ。今度で3度目となった武道館公演の2デイズはその一例だろう。日本のヒップホップのシーンにおいて武道館でライヴできるアーティストは多くないし、2デイズを実現したアーティストは現時点でAK-69をおいて他にはいない。
AK-69というアーティストの魅力は、端的にいってその言葉だ。漫然と生きているだけでは到達し得ない目標を設定し、そこまでの険峻な道のりを、奥歯を噛み締め一歩一歩踏み固めるように書き綴った克己の言葉たち。既に名を馳せていたストリートの生活にみずから終止符を打ち、ガソリンスタンドのバイトから始まったキャリア。生き様の言葉を紡ぐ音楽で現在のスターダムを勝ち得たAK-69は、その存在を通してみずから言霊を証明する。
「あいつらが生きたかった今日を、死ぬほど生きようぜ」
最近、彼がよく口にするこうした言葉はAK-69の信条そのものと言っていい。AK-69の言葉は、生き様を映すヒップホップという表現に人生を捧げた男の帝王学なのである。そんなAK-69の音楽が、フィールドを問わず前線に生きる人々のマインドセットと共振するのは想像に難くない。
HIP HOPにはとかく犯罪や薬物のイメージがつきまといがちだ。「生(ナマ)」の言葉が持ち味のラップという表現だからこそ、時として過激な表現はHIP HOPの魅力の一面と見ることもできるし、つまりはそういう音楽なのだと偏見を持つのも理解はできる。だが、それがすべてならHIP HOPが全米ビルボードのTOP10を埋め尽くす今の現実はないはずだ。その根幹には、どんな環境も自分の成功を邪魔しない、逆境や障害は時に最高のモチベーションになるというアティチュードが力強く脈打っている。ラップには楽器がいらず、今その瞬間始められる音楽というがそのわかりやすい例だ。誰にでも、今・この瞬間から人生を変えることができる。その可能性をHIP HOPは示唆している。
AK-69の歌がなぜフィールドの一線にいる人々に選ばれるのか。実際に歌やライブに触れ、その理由を体感してみることをお勧めしたい。あるいは、あなたが新たな一歩を踏み出す契機になるかもしれない。
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