星野源、エッセイを書く時に心がけていることとは?「感動したらそれを強調して伝えたくなるけど…」
10月1日、星野源が『いのちの車窓から 2』(KADOKAWA)の出版記念トークイベントを東京都の「HMV&BOOKS SHIBUYA」で行った。
「いのちの車窓から」とは、雑誌『ダ・ヴィンチ』2014年12月号よりスタートした星野源のエッセイ連載。本書は、その連載をまとめた『いのちの車窓から』(2017年3月刊)から約7年半ぶりの刊行となる第2巻で、9月30日に発売となった。2017年から2023年までの連載原稿(不定期連載※一部連載時原稿未収録、改稿あり)に、4篇の書き下ろしを加えた計27篇+あとがきを収録。カバーと表紙のイラストは、角川文庫版『いのちの車窓から』と同じくビョン・ヨングン氏が手掛けた。
会場には当選したファン約30人が集まり、星野が登壇すると、興奮というより温かく親密な空気に包まれた。星野は『いのちの車窓から 2』の中でもたびたび自身のライブ会場を埋め尽くした観客への感謝を言葉にしているが、やはりここでもファンとのつながりを大切にしていた。フォトセッション後のちょっとした空き時間もフリートークで和ませ、トークの始まりには、「困るでしょ?この近さは困る(笑)」と会場に話しかける。オンライン視聴者に向けても、カメラ越しに手を振った。
司会を務めたのは、編集・ライターの小田部仁。星野のメンバーシップサイト「YELLOW MAGAZINE+」の編集を手がけている。トークはこの二人だからこその、深い内容となった。
初版12万部という数字については、「あまり実感がわかないですが、ありがたいです」と星野。「既に手元に届けられた感想は?」との問いには、「いろんな方から推薦コメントをいただきました。佐久間(宣行)さんとか普段お世話になっている方を含め、あとは僕の大好きな小説家の米澤穂信さん。そのメッセージが素晴らしくて、本当にしっかり読み込んでくださったんだなと。それをみなさんに届けられるのは、とても嬉しいです」と語った。
星野の文筆家としてのキャリアは約20年にもなるが、その原点は小学生時代にあるとして、「僕、国語の授業が好きだったんです。感想文や作文。だから文章を書く仕事に憧れがあって。趣味でやっていた音楽と役者が20歳以降仕事になって、やっぱり文章も書きたいなって」「自分にしか書けない文章ってどんなものだろうと。それを追求して、これなんじゃないかと辿り着けたのが、この『いのちの車窓から 2』です」とコメントした。
エッセイを書き始めた頃は、「面白いものを書きたい」と思っていたという星野だが、『いのちの車窓から』に関しては、「何も考えない」「パソコンの前に座って、何書こうかなあ、から始まるんですよ。そういえば、あんなことあったなあと書き始めるけど、オチは見えていない。自分が一番スリリング。で、『これどうやって終わるの?』みたいなところから、パーンって急にきれいに決まるときがあって、それがすごく気持ちいいんです」「自然に自分の中に出てくるものを書き留めるように、いつも気をつけています」と語った。
その一方で、エッセイの性質上、どうしても“エゴ”のようなものが出てきてしまうといい、「そういうエゴを削ぎ落としていく作業をいつもしていて。自分が“強調したい”思いがあったら、それを削る。強調って欲と似ている。例えば感動したらそれを強調して伝えたくなるけど、(読者は)強調している僕の話を読むだけになってしまう。それをどんどん削ぎ落としていくと、読む人が同じように体験できるということになるんじゃないかと。このエッセイは、そういう書き方をしています」と話した。
最後には、今後の活動について、「前はやっぱり同時にいろんなお仕事をしたいというのがあったんですけれど、今は一個一個大事にやっていきたいと。音楽にしろ、役者にしろ、文筆にしろ、じっくりやっていけたらと思います」と語った星野。20年にわたる文筆業の道程からエッセイの背後にある創作の本質まで、星野が自身の心の“窓”を見せてくれたような、貴重なトークイベントとなった。