志尊淳、杉咲花の主演としての立派な姿勢を称賛「今にも倒れそうな熱量で役と向き合っていて…」
町田そのこによる原作「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)は、2021年の本屋大賞を受賞し、累計発行部数100万部目前の圧巻の傑作ベストセラー小説。同書を映画化した本作で、主人公・貴瑚を演じるのは、抜群の演技力で映画・ドラマと幅広く活躍し、国民的女優としての地位を確固たるものにしている杉咲。貴瑚が幸せになることを一身に祈るトランスジェンダー男性の塾講師・岡田安吾役を志尊が演じる。
この日を待ちわびた約500名を超える観客が見守る中、会場には本作を象徴する巨大なクジラの造形が出現。観客からは驚きの声があがり、さらに杉咲、志尊らがクジラの上から登壇。大仕掛けな演出に、会場は熱気の渦に包まれた。
杉咲は、この作品への出演を「かけがえのない出会いになりました」と語り、「この物語で描かれていることをひとつひとつ知っていくにつれて、もしかして自分がいままで見えていなかったかもしれない存在の周波数、自分が聴こえる周波数が少しだけ広がったんじゃないかと思っていたりもして、すごく大切な出会いになったと思います」と本作への並々ならぬ思いを口にした。
これまでにない難しい役を演じるにあたって、志尊は「知らないことが多すぎたので、とにかく知ることを大切に演じさせていただきました」と語る。事前にリハーサルの時間をたっぷりとった上で、撮影に入ったこともあり、志尊は「(撮影に)入る時は、みんな団結していたし、役を理解する時間も多く取れました」と振り返り、杉咲も「ウォーミングアップの時間を含め、役を知っていく時間でもあったし、お互いを信頼できる贅沢な時間をつくっていただきました」とうなずいた。
また、志尊は初めてとなった成島監督作品への出演についても言及。「10代の頃から見させていただいていて、役者だったら『出たいな』という気持ちが強かったんですけど、途中からもう交わることがないだろうと感じていた中で、このお話をいただきました。それでも簡単に『やりたいです』と言えるような作品、役柄ではなく、自分にそこまで背負える覚悟を持てなかった段階で成島さんとお話した時、作品にかける思いをお聞きして『これは一緒にやっていきたい』と思えたので、今回、一緒にできたのは幸せな経験でした」と万感の思いを語る。
さらに、杉咲との共演についても「今回、僕がこの作品の出演を決めたひとつのフックは、主役が花ちゃんだったこと」と明かし、現場での様子について「俳優が作品に向き合う姿勢ってこうだよな…というのをまざまざと感じました。今にも倒れそうな熱量で役と向き合っていて、撮影が終わったら終わりじゃなく、ひとつひとつに対しても、誰よりも前に立って突き進んでいく姿を見て、尊敬しかなかったし、お芝居をしていても『杉咲花、素晴らしいな』と思いました」とリスペクトを口にした。
これを受けて、杉咲は「恐縮です」と照れつつ、「最初は探り探りでしたけど、この作品に対してどう思っているか?意思を共有しながら、安吾としての眼差しをカメラが回っていないところでも向け続けてくださって、絶対的な味方としていてくださったんです。サポートに徹してくださって、こんなに素敵な共演者さんと出会えたことが幸せですし、何より身を捧げて安吾という役を演じ切られた姿に尊敬しかないです」とこちらも敬意と称賛の言葉で返し、会場は感動に包まれていた。
舞台挨拶の最後には、杉咲が登壇陣を代表してマイクを握り、「とても緊張しています。こんなに緊張することはあまりないんですが…」とこれから作品を観る観客を前にややこわばった表情を見せつつ、「私たちは、この物語を本当に大切に思っていて、どんなふうに届けられるかを議論し続けてきました。本当にいろんなことが描かれるんですけど、最後には光を見出そうとする姿を描き切れるだろうかというところにみんなで、いまできる限りの力を注いできました。きっといろんな感想があると思いますが、そこでの気づきを人生やこの先、関わっていくものづくりにフィードバックしていけたらいいなと思っています。見てくださる方々が、この物語をもしも必要と思っていただけたら、『こんな映画があったよ』と誰かに伝えていただけたら嬉しいです。隣にいる人のことを想像できる作品になっていたらいいなと思います」と思いの丈を語り、会場は温かい拍手に包まれた。